京都地方裁判所 昭和44年(手ワ)200号 判決 1969年7月01日
原告
木下善男
被告
中務工業株式会社
右代表者
新田重夫
主文
被告は原告に対し金三五〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四四年五月一日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
本判決は仮に執行できる。
事実《省略》
理由
一、原告が被告の振出した左記約束手形一通(本件手形)を所持していることは、被告の認めるところである。
金額 金三五〇、〇〇〇円
支払期日 昭和四四年四月三〇日
支払地、振出地 京都府久世郡城陽町
支所場所 宇治信用金庫城陽支店
振出日 昭和四三年一二月三〇日
振出人 中務工業株式会社(被告)代表取締役 新田重夫
受取人 夏原幸一
第一裏書(白地式)裏書人
夏原アルミサッシュ製作所代表者 夏原幸一(以上、手書き。名下に夏原幸一の丸印押捺。)
第二裏書(取立委任)裏書人
木下善男(原告)
同被裏書人 福井銀行
第三裏書(取立委任)裏書人
福井銀行京都支店長 浅井幹男
同被裏書人 南都銀行
二、1、裏書の連続の有無は、受取人(被裏書人)の記載と裏書人の記載とを切りはなして、それぞれの記載の意味を独立に解釈し、その結果に基いて、判定するのではなく、受取人(被裏書人)の記載と裏書人の記載とを比較対照して、その関連においてそれぞれの記載の意味を合理的に解釈することによつて、判定すべきである、と解するのが、裏書の連続の制度の趣旨から考えて相当である(最高裁判所昭和三〇年九月三〇日第二小法廷判決、民集九巻一〇号一五一三頁参照。)
2、受取人の記載と裏書人の記載との対照関連においてその解釈をするという上記判定基準に従い、かつ、氏名に職名を附記してその個人を指称することは取引において往々行われるという事実を考慮すれば、
(一) 上記最高裁判所判決が裏書の連続を肯定した受取人「愛媛無尽会社岡支店長」と裏書人「岡善悪」のような、受取人「甲会社支店長(代表又は代理関係の表示)」と裏書人「A」の場合だけでなく、
(二) ((一)と逆の場合)、(1)受取人「A」と裏書人「甲会社専務取締役(代表又は代理関係の表示)A」の場合および
(2) 本件手形の受取人「夏原幸一」と裏書人「夏原アルミサッシュ製作所代表者夏原幸一」のような、受取人「A」と裏書人「甲(法人か個人か不分明の商号)代表者(代表又は代理関係の表示)A」の場合にも、裏書の連続を肯定するのが相当である。
3、本件と同じ右(二)の(2)の場合について、大審院大正三年六月二二日判決、民録二〇輯四八五頁は、受取人「曽根竹次郎」と裏書人「竜安商店代表者曽根竹次郎」との間に、裏書の連続を肯定した。原審東京控訴院大正二年八月五日判決、新聞八八九号二八頁は、手形以外の証拠によつて、竜安商店は法人でなく、曽根竹次郎が竜安商店という商号を用いて営業をしている事実を認定し、この事実から、右裏書記載を曾根竹次郎が自己の商号を記載してした裏書であると解釈し、その結果に基づいて、裏書の連続を肯定し、大審院判決は、これを是認した。しかし、この理由付けは相当でない。裏書の連続の有無は、手形の記載自体に基づいて、上記の基準に従い判定すべきである。
4、従つて、原告は裏書の連続のある本件手形の所持人である。
三、南都銀行が右手形を支払期日に支払場所に呈示して支払を求めたが、拒絶されたことは、被告の認めるところである。
四、よつて、原告が被告に対し本件手形金三五〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四四年五月一日から支払済まで年六分の法定利息の支払を求める本訴請求を正当として認容し、民事訴訟法第八九条、第一九六条を適用し主文のとおり判決する。(小西勝)